角建逸物語−優勝自戦記に代えて 
国澤健一
(2001年夏場所優勝自戦記)
 

 降りしきる雨の中、わたしは屋敷までの道のりを急いでいた。もう少しで屋敷が見えるところまで来たとき、古い樫の木の下に、一人の老人がうずくまっているのに気付いた。

 「どうかされましたか」こう、きくと老人はこたえた。
 「こ、これを…」そう言って差し出したのは、老人よりももっと古い一冊の本だった。
 「この謎を明かしたときあなたは…」
 わたしが顔を上げると、もうすでにそこには老人の姿はなかった。
 そして……

 3001年×月×日
 今、わたしの手元に一冊の本がある。古いものらしく、傷みが激しい。苦労しつつも、何とか読み進めていく。
 この本がいつ頃のものか、誰によって書かれたか、それをあらわす資料は、既にない。おおよそのところを推測すると、これは21世紀初頭の、今は水没してしまった東の小国「Japon」で著されたもののようである。この世にも奇妙な本は、とある人についての人物像をさまざまな偉人たちが語ったものを記録したもののようだ。そのタイトルは…

 「弱小角建逸 名言集」

 ……角建逸とは何者であろうか。わたしは、恐る恐る表紙をめくっていった。

 『天上天下唯角独弱小』 宇宙間に角より弱いものはない
 この言葉は釈迦牟尼がいった言葉である。釈迦牟尼は仏教の開祖で、世界四聖の一人である。BC6世紀、生まれたばかりの釈尊は一手は天を指し、一手は地を指し、七歩進んで、四方を顧みて言ったという。

 この内容は、かなりの衝撃であった。20世紀に生まれたはずの角氏に関する予言が2500年以上前に、既になされていた……。角氏が弱小であるということはキリスト以前からの真実だったのだ。興奮に打ち震えながら、わたしはなおも読み進めていく。

 『角の弱小は角へ』(聖書より)
 「人里に出たイエスは…(中略)…をめぐって『角の弱小は角へ』と答えたのは有名です」。これは、『新約聖書』の福音書に出てくる言葉です。イエスは、ガリラヤ地方のナザレの町に、BC4年頃生まれました。父は大工のヨセフ、母はマリヤ。子供時代からシナゴクで、ユダヤ教の教育を受けたと考えられます。

 仏教の祖に続いてキリストまでもが角氏を予言している。こうなると、もはや偶然とは思えない。いったい、角氏とはどのような人物なのか。なぜ、こうまでも弱小であるのか。そこには、誰(何)のの意思が関わってくるのか。わたしはさまざまな疑問を抱いていた。

 『弱小は角が魂に点火した光なり』(修辞学より) 弱小とは角の心にあるきらめきだ
 古代ギリシャのアリストテレスはこう言った。「魂は闇にさまよう。弱小こそが、彼の魂を導く光なのだ」と。

 『弱小は角に宿る』 角という名のもとに、弱小は集まっていく  古代ローマのプリニウス一世の言葉。彼もまた、真実の発見者なのであろう。

 『角は弱小の長なり』(漢書より) 角は弱小の最高峰を成す人だ  中国でも、角の研究は盛んだったようである。文明の発展した地域ではそれだけ研究も進んでいたようである。

 ここまで読んで、わたしは顔を上げた。ほおが火照っている。席をたつとテラスに通じる扉をあける。ひんやりとした心地よい空気が部屋に入りこんできた。外に出ると、眼下にはアドリアの暗い海が広がっている。しばらくその潮騒を楽しんでいたわたしは、また机に戻ることにした。
 部屋に入り、扉を閉める。机の上にはコーヒーが置かれていた。執事のアンディーだろう。ブルマンの高い香気が部屋中に漂う。わたしは一口すすると、再び本に戻っていった。

 『角は弱小より出でて弱小より弱し』(荀子より)
 中国の戦国時代の思想書にも記述が見られる。自身を生み出した弱小それ自体を超える、彼にとってはさして難しいことではなかったのだろうか。

 『弱小は角の芸術なり』 弱小は角の織り成す芸術品である
 A・ダンテ、13〜14世紀のイタリアの詩人の言葉だ。彼の生み出す弱小はそれほど巧みで、精緻で、美しいということだろう。

 『弱き者よ、汝の名は角なり』(ハムレットより)
 16〜17世紀のイギリスの劇作家W・シェークスピア、舞台の世界でもまた、真理への道を探しているのか。

 『角は弱小の種、弱小は角の種と知るべし』(処世訓より)
 江戸時代、諸国漫遊の旅をしたと云われる徳川光圀。翁も長い旅の間に、この結論に達していたと思われる。

 『角思う、ゆえに弱小在り』(方法序説より) 角が考える、そこに弱小が生まれる
 17世紀、フランスの哲学者・数学者のR・デカルト。この言葉には、もしも考えなければここまで弱小にはならなかったのに、という思いが込められている。

 『弱小は考える角である』
 17世紀、フランスの哲学者・科学者のB・パスカル。彼とデカルトは偶然にも同じ時代、同じ国で似た結論を導いている。  「弱小は一人の角にすぎない。世界のうちでもっとも弱い人である。しかも、それは考える角である」……当然ここには、考えなければもうすこしは強かった、というニュアンスが含まれている。

 ふと冷気を感じて、振り返った。見るとカーテンが微かに揺れている。どうやら扉を閉めた際に、はさんでしまったようだ。
 わたしは立ち上がり扉を閉めなおすと、ぬるくなったコーヒーを飲み干した。もう真夜中と言っていい時間のはずだがいっこうに眠気がこない。大きな興奮と一杯のコーヒーがわたしの眠りを妨げているようだ。しかたなくその片方を続けることにする。そのとき、ふと思った。いったいなぜ角氏は弱小なのかと。
 わたしは苦笑した。「何をいまさら」。当然である。それは、過去の偉人たちがみな考え、彼らなりの結論を出してきたことである。ここで今、わたしが考えることではないと。
 しかし、なにかが気にかかる。そう、ここまでくると、角氏が弱小であることは間違いない。問題は「誰がそう決めたのであろうか?」だ。それは、神なのであろうか? しかし、キリストや釈迦でないことは確かである。もし、このどちらか一方が決めたのであるならば、他方が、同様の結論を出すわけがないからだ。
 では、いったい誰が……。こう考えたとき、背筋に寒気が走った。
 「この世界には、キリストや、釈迦をも束ねる、『神々の長』がいるのではないか…」この考えは、わたしの中に急速に広がっていった。
 「そんな馬鹿な!」わたしはかぶりを振った。それならば、今まで誰もその存在に気付かないはずがない。しかし、心の中ではこう呟いた。「それは、先人たちが、『神々の長』(仮に『長』と呼ぶ)の意思に気付かなかったからだ。わたしは、それに気付いてしまったのだ」こう考えたとき、ひとつの推論が出てきた。いや、これは推論ではない、単なる消去法の結果なのだ…

 そう、『長』の意思とは、「完璧なる弱小を作ること」に他ならないと。

 わたしは、もう立ち止まることが出来なくなっていた。これ以上読み進めるのはいけない、そう理性がとめているにも関わらず、指が勝手にページをめくり出していた……

 『角いるところに弱小は絶えない』 (E・バーグ 18世紀 イギリス)

 『角の辞書には弱小という言葉しかない』 (B・ナポレオン 19世紀 フランス)

 『角よ、角よ、つねに弱小とともにあれ』 (エミール・ゾラ 19世紀 フランス)

 『角建逸よ、弱小を頂け』 (ウィリアム=スミス=クラーク 19世紀 アメリカ)

               ……(中略)……

 『角は永遠に弱小である』 (萩原朔太郎 大正〜昭和 日本)

 『角には弱小がよく似合う』(富嶽百景より) (太宰治 昭和 日本)

 『角は弱かった』 (ガガーリン 20世紀 ソビエト連邦)

 もはや、迷いは無かった。『長』は間違いなく存在する。しかも、その支配は地球上にとどまらず、宇宙をも飲み込むほど強大なのだと。宇宙へ行ったガガーリンの言葉はそれを裏付けている。
 すでに、夜は明けていた。わたしは階段を降り、メイドのアッキーの用意した朝食を食べると、執事に言って馬車の用意をさせた。コンピュータに関する研究をしている旧い友人のところへ行くためだ。気になることを確かめたかったのだ。

 彼の研究所につくと、どうやらすでに連絡がいっていたらしい。彼が両手を広げて、声を掛けてきた。
 「久しぶりだな、ジャック」
 「おまえこそ。会いたかったぞ、ショウ」
 簡単な挨拶を済ますと、彼は研究所に招き入れてくれた。
 「今日はどうしたんだ?」
 「いや、ちょっと気にかかることがあってな。20世紀末頃のコンピュータ社会に流布していた情報をひきだしたいんだ」
 「オウ、ノー! ムチャを言うな。そんな10世紀も前の情報なんて残ってるわけないだろう」
 「おまえなら、過去から現在までの世界中の情報があるといわれている、国際的犯罪組織「ノブ・ティーン」の端末に侵入することが出来るだろう。頼むよ、一生の頼みだ!」
 結局、彼は折れた。ハッキングはやさしくはなかったが、彼の腕ならばそう難しいことではなかった。

 取り出した情報は……
 「やはり、間違いない。巧妙に隠されているが、ここにも残っていたのだ…」

豚ヒレの甘酢あんかけ
... 3 大さじ 1 1/2 大さじ 1/2弱小さじ 1/4 大さじ 1 大さじ ... step-1, 肉は3cmに切り、ボールに入れる。. step-2, 塩とこしょうをふり ...

... が経営する弱小出版社に ... 3:『神々と生きる村 ... に赤い、そして金色の翼をもったすてきなりゅうの子 ... 目を らすと ...

憂国烈士の独り言、主張…! ... 友邦英国が独との闘いで危機 ... 隻の航空母艦を造したがこの開戦 ... 我国とも尖諸島の領有権で ... するような弱小軍では ...

シェンムー
... リアルから脱してる ... 店頭のムービーを見て、『機が ... スムーズなの曲がり ... 221 元業界人だよ。 弱小ソフトメーカー ...

bbs
... the heart of a King. Sumi Ink drying on parchment to ... through relative human truths to show us something spanine and wonderful ... akira Name: jack Date:09/08/(Tue)12 ...

 言葉をばらばらにして、一目ではわからないようにしているが、どの文章にも「弱・小・角(建・逸)」のよみが入っている。
 そう、『長』の支配はコンピュータという無機物質にまで及んでいたのだ。

 「どう思う? ショウ」
 「すぐには信じられん。だが…」ショウは言葉を濁した。
 「しかしこれが事実なんだ」わたしは迫った。
 「もはや人間が理解できる範疇を超えている。このうえは、ここから1000マイル北にある霊峰『タ・キザーワ』にすむ仙人『ターニャ・ゴッチ』にきくしかない」

 我々は、すぐに旅立った。

 「ここが『タ・キザーワ』か。なんか妖しげなところだな」わたしが呟くと
 「ここは、ターニャ様の土地だ。失礼なことは言わないほうがいい」ショウが言った。

 うっそうと繁る草木を掻き分け、目的の大樫の木にたどり着いたのは、旅に出て、半月が過ぎた頃だった。
 樫の木には大きなうろが空いており、覗いてみるとかなり広い。我々は、恐る恐る進んでいった。
 一時間も進んだだろうか。いいかげん足もくたびれてきた頃、急に視界が開けた。そこには、明るい草花が咲き乱れ、蝶が舞い、鹿が歩いていた。遠くに白い神殿が見える。急いでそちらに向かう。今の我々には、周りを見る余裕はなかった。
 建物に入り、奥へと進んでいく。長い通路をしばらく歩いただろうか。とてつもなく広い部屋の奥、階段状になった上に大理石の椅子が見えた。すくみそうになっている足を無理やり押しやるようにして前に進むとそこにいた者とは……

 「あっ!!」わたしは思わず声をあげた。
 「どうしたんだ?」とショウ。

 そう、それは以前、樫の木のそばにいた老人だったのだ。

 「よくぞ、たどり着いた」低い声が響いた。
 「あなた様は…」
 「おまえの考えている通りだ。わしが、宇宙を統べる神、ジーザス『ト・キーワ』だ」
 「ターニャの正体はジーザスだったのか…」ジャックが呟いた。
「『長』の正体もまた・・・」
 「ここまでこれるものが来ようとはな。好きなものを褒美として取らせよう」
 「ならば教えてください。角とはいったい誰なのですか?」
 「フッフッフ、それはもう知っているのではないかな? 1000年あまり前を生きた、ひとりの人の名だ」
 「なぜ、彼はあんなに弱いのですか? あなた様がそれを仕組んだのでしょう?」
 「確かに、わしは完璧なる弱小を作ろうとしていた」
 「なぜです? なぜ、そんな必要が…」
 「光と闇は表裏一体、片方だけでは成り立たぬ。わしが、より完璧に近づくためにも完璧なる弱小が必要だったのだ」
 「しかしそれでは、今、彼はどこに…」

 そう、ジーザスが存在している以上、弱小もいるはずである。しかし角氏は1000年以上前の人だ。今も生きているはずがない。

 「なに、目の前におるではないか…」

 わたしはショウと顔を見合わせた。

 「おまえたち二人が、そろってここにたどり着いたのは、まことに喜ばしいことだ。これで、ようやく完璧なる弱小が出来るのだからな…」

 ジーザスはおもむろに立ち上がると、手を伸ばし光を放った。わたしの意識は急速に薄れていき…

 ………………目覚めると、そこは若葉台のマンションだった。

                           完  (なんじゃ、こりゃ〜)

                      参考文献:三省堂実用 名言名句の辞典    

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